岡田浦 地曳網漁体験と生き物観察会

岡田浦 地曳網漁体験と生き物観察会

泉南市の「岡田浦」漁港で地曳網に挑戦しましょう。地曳網のあとは、潮のひいた海辺で生き物をつかまえて観察します。

第1回 2021年7月11日(日)終了しました 募集要項はこちら

第2回 2021年8月21日(土)終了しました 募集要項はこちら

岡田浦での地曳網漁体験で見られるかもしれない生き物

大阪湾の環境と生き物たち

 大阪湾には外海からの水が流入するとともに、淀川、大和川などの大小多数の河川から栄養に富む淡水が流入し、さらに潮汐(みち潮・ひき潮)によって瀬戸内海から内海水が出入りします。かつて大阪市から泉南の沿岸には浅い砂浜や干潟が広がり、太古から魚介類が豊富に生産されていました。魚が豊富な大阪湾で多くの漁法が発達し、その技術は日本各地へ伝播していきました。地曳網もその一つで、大阪湾沿岸に豊富なイワシや魚介類を漁獲し、漁獲された魚介類はその周辺の集落の人を養い、奈良の都へと運ばれ利用されていました。地曳網は大阪湾から紀州(和歌山県)へ、そこから関東へも伝わり、千葉県の九十九里浜などでイワシ漁がおこなわれるようになりました。和歌山から伝わったことで房総半島には白浜や勝浦などの地名もあります。縄文時代(6500年前)は温暖な気候で、海が内陸まで入り込み、河内湾(縄文海進)があった頃には、外海から鯨が来遊し、大阪平野から鯨の骨や海の魚介類が発掘されます。この時代から氷期に向かい、生存する魚は温帯的になり、現在の大阪湾に見られる魚種へと変化しますが、今と大きな変わりはないものと考えられます。

 大阪湾は紀伊水道で外海と、明石海峡で内海とつながり、春に外海から来遊する魚や、秋に内海から外海に出る季節回遊魚の通り道となり、それに加えて大阪湾で一生をおくる魚介類がみられ、四季それぞれに豊富な魚介類が漁獲されます。主に見られる魚種は今も昔も共通するものが多いが、戦後の高度経済成長期の臨海工業地帯の開発や、近年の関西空港関連の埋め立てにより、浅い砂浜や岩礫浜海岸がほとんど消滅し、クルマエビ、アサリ・ハマグリなどの貝類、イイダコなど減少や、砂浜で繁殖するネズミゴチ(真ガッチョ)など、著しく減少した魚種もあります。

環境

 大阪湾というと、汚れた海という印象をもつ人が多いと思います。大阪府南部では今も自然海岸が少し残り、海水も透き通っていてきれいです。北部ではかつて白砂青松といわれた海岸と浅い海が埋め立てられ、海岸はコンクリート化し、港湾岸壁にはテロ対策の金網の柵が張り巡らされ、海辺がさらに遠退いています。春から秋に赤潮が発生すると、海水は茶色く濁り、とても泳ぎたいとは思わない状態になることもあります。過去に水産試験場に見学に来た小学生や府民から、「大阪湾に魚はいるのですか?」、「海は綺麗なんですか?」、「大阪湾の魚は食べられますか?」という質問を良くされました。大阪湾を見る機会が少ないこともありますが、大阪湾北部の港湾域を見ると、こんな質問をされても無理のない事かもしれません。しかし、最近は海水の栄養分が減少し、冬には栄養が足らずにノリやワカメの色落ちが発生することもあります。こんな環境にしてしまった人にではなく、守りたいと思っている人がこれに答えねばならないのも歯がゆい所です。しかし、意外なことに、この汚く見える海はプランクトンなどの生物が多く、実はたくさんの生物が育つ畑のような海である証拠でもあるのです。

 大阪湾は紀伊水道から外海の多様な生物の幼生や稚仔を含んだ塩分の高いきれいな外海水が入り、湾奥の河川から富栄養な水が流れ込んで大量の植物プランクトンが発生します。このため、海水の透明度や塩分は湾口から湾奥に向かうほど低くなり、外海からの生物は湾口部に多く着底するため、生物多様性も湾奥に向かって低くなります。しかし、生物は栄養分の多い湾奥ほど多い傾向があります。

 大阪湾の水質汚濁は昭和40年代の経済高度成長期に急激に進み、富栄養化による赤潮の頻発、その後の貧酸素水塊による魚類の斃死などが報道され、こうした印象が湾奥海域の価値を低く見せ、大阪湾は死んだ海であるかのように印象づけられました。瀬戸内海の環境がこれ以上悪くならないようCOD・リン・窒素等の排水の総量削減規制などを軸に、際限のない埋立を制限する瀬戸内法(昭和53年)が制定された現在も、何かと言えば埋め立てが計画され実行される一因ともなっています。しかし、当時の富栄養化によって湾奥で発生する莫大な植物プランクトンを餌に、動物プランクトンが大量に発生し、これを餌とするイワシ類をはじめコノシロやアジ等の浮魚類が、過去にも増して大量に漁獲されていました。プランクトンの増加は、海岸の生物相にも反映し、護岸にはプランクトンなどの懸濁物を食べるマガキやムラサキイガイ、フジツボ類などが多くなり、海底にはプランクトン由来の有機沈殿物を餌とするヨツバネスピオAタイプ(当時は汚染指標種とされていた。現在はシノブハネエラスピオと改名された)というゴカイの仲間が大量に発生し、これを餌とするマコガレイ、メイタガレイ、イシガレイ、ガザミ、クルマエビ、ヨシエビなどの高級魚介類が多く漁獲されていました。

 大阪湾は外海からの清澄な水と湾奥の栄養豊富な水でまわる連続培養器のような海といいましたが、近年は埋立地によってその水の動きが低下してきています。低下するとどのような影響があるかというと、生物に被害を与える貧酸素水塊が発生しやすくなります。特に夏・秋に海水交換の悪い閉鎖的な港湾域などでは、昼間は表層水中の赤潮状態の植物プランクトンによって発生した酸素が過飽和で存在しますが、表層水の温度が高いことや河川水の影響によって表層水は比重が小さく、下層の冷たく塩分の高い重い水と混じり合わずに成層化し、海底に酸素が供給されません。その上、夜はプランクトンの呼吸で上層でも酸素が消費されて少なくなり、死んだプランクトンは海底に沈降し、泥に含まれる有機物も好気性細菌によって分解されると、大量の酸素が消費されて海底で深刻な酸素欠乏が起きます。酸素がなくなると、次には嫌気性細菌による分解が起き、猛毒の硫化水素(腐卵臭)を含んだ水ができ、陸風などで表層に上がって、水が青くなるのが青潮です。青潮が発生すると莫大な量の生物が斃死し、底びき網などは湾奥域で漁獲が激減し、漁場を変えざるを得なくなります。湾奥域は生物の生産の極大値と生物の斃死の崖淵を綱渡りしている状態にあると言えます。

 しかし、時期的・場所的に漁業生物が減少しても、大阪湾は完全に閉鎖された湾ではないので、それを湾中部と湾口部で他の種がカバーしたり、瀬戸内海から外海に降りていく生物が漁獲されたりするしたたかな面をあわせ持っています。しかし、できるだけ夏場に漁業生物が大規模に斃死しないように、環境をうまく制御していく必要があります。排水規制などによって過度な富栄養化を軽減することは言うまでもありませんが、夏場の成層を緩和するためには、湾奥沿岸域の海水流動を良くすることが有効な方法と考えられます。それには、次々に埋めてられるゴミの島や空港島などの大規模埋立地などは、島の角度を工夫したり、大阪湾の海流を妨げないように船型や流線型にするなど、大阪湾の流れを妨げないような形状に計画するべきでしょう。

 日常生活においても、環境に配慮して家庭排水中の栄養物質を減量させることや、行政的には、海底泥中の有機物除去のための底質改良なども良いでしょう。今後もゴミ処分や産業用地のための埋立が計画されるでしょうが、ゴミ処理用の埋立地などは可能な限り寿命を延ばすため、ゴミの再利用や圧縮・軽量化をはかる必要があります。未来に健全な自然環境を残せるよう、身近な海への配慮がもっとなされて当然ではないでしょうか。

漁業

 大阪湾では大昔から漁業がさかんに行われ、大阪湾で発明された地引き網は紀州の漁師によって千葉の九十九里浜に伝えられ、有名なイワシ漁に使われています。今でも大阪湾の漁獲量は多く、世界的に生産力の高い漁場として有名な瀬戸内海においても、単位面積あたりの漁獲量では1、2位を誇っています。汚いと言われながら、どうしてこんなにたくさんの魚が獲れるのでしょうか?信じられないかもしれませんが、水が濁って汚いと言われる大阪湾北部から中部は、水のきれいな南部より大量の魚が獲れます。これは湾奥で大量に発生する動物プランクトンがイワシやアジなどの餌になるからで、プランクトン食の浮魚類が漁獲に大きな割合を占めています。プランクトンなどの死骸が海底に降り積もるので、多量のゴカイや二枚貝類を養います。また、これらを餌にするエビやカニ、シャコ、アナゴ、カレイやシタビラメなどの底魚や底生生物も大量に育ちます。

 大阪湾にみられる魚は、「定住種」と「来遊種」に分けられます。「定住種」とは、マコガレイ、マハゼやカサゴなどのように大阪湾で生涯を送る種をさします。「来遊種」とは、マアジやマサバ、マダイなどのように外海で生まれた卵や稚仔が春季に海流に運ばれ、湾内の豊富な餌を食べて成長し、晩秋に外海へ戻るものや、サワラのように産卵に入ってくる種、ブリやカンパチなどのように産卵・生育場は外海にあり、餌を求めて一時的に回遊してくる種、アカメやチョウチョウウオなど海流によって偶然に送り込まれる種があります。来遊種の中には、港や河口で飛び跳ねているボラや、池や川にいるウナギなども含まれ、身近にいるので外海生まれとは信じられない種もあります。ウナギはサイパンやマリアナ海溝付近で生まれ、アナゴはそれよりやや近い台湾の東方で生まれ、黒潮に乗ってはるばる2000km以上もの旅をして、日本にたどり着きます。ボラは紀伊水道の外にある枯木灘で産卵し、春に稚仔魚が来遊し、いずれも内海域で成長した後に産卵に外海へ戻るので、母川回帰で有名なサケとは逆の生活史を送っています。このように大阪湾は定住種に加えて、季節来遊種が豊富な餌を食べて育ち、瀬戸内海から外海へ戻る魚類の通り道にもなっているので、大阪湾の漁獲量をさらに大きくしています。

生物

 大阪湾には大阪港や神戸港といった大きな貿易港があり、外国船が多数航行します。こうした船の船体やバラスト水に外国からの生物が隠れて入り込みます。海の中にも国際化の波が押し寄せているようです。ムラサキイガイ、ミドリイガイ、イガイダマシ、チチュウカイミドリガニ、マンハッタンボヤなどの外来種が港湾域で大量にみられます。日本に元々いた生物を押し分け、棲み場所を占領して優占する外来種の繁殖力の強さとしたたかさに驚かされます。

 最近は気候の温暖化の影響で、大阪湾の水温が非常に高くなっています。この結果、熱帯や亜熱帯の海から黒潮によって運ばれてきた生物が多数みられるようになりました。これらの生物は稚魚や幼生で入り、通常は冬季の低水温で死滅してしまうのですが、近年は暖冬などで生き残り、シマイシガニやモンツキイシガニなど南方の生物が大阪湾で繁殖を始めたものもいます。逆に、釘煮の材料にするイカナゴ、かつて大量に漁獲されたマコガレイは冷たい海を起源とする魚です。イカナゴは水温が高くなると砂の中に潜り込んで眠る習性があります。水温が高くなると、夏眠に入るまでの餌を食べる時間が短くなり、十分な栄養を取れないまま夏眠に入ります。栄養不良で夏眠すると、夏眠中の親の死亡率が高くなり、卵質も低下し、卵数も減り、イカナゴの資源量が減少します。また、マコガレイは暖冬になると、雌雄の成熟のタイミングがずれて、繁殖活動に悪影響を受けます。また、夏季に水温が30℃を超えると十分な酸素飽和度があっても死亡し、高水温で酸素飽和度が低下すると死亡しやすくなるなど、温暖化が資源の減少に影響を及ぼしている可能性があります。また、海苔やワカメなども、養殖できる期間が短くなって収穫が減少します。このほか、地球温暖化による生物の反応ではないかと見られることがたくさんあるので紹介します。大阪湾の生物を通して、大阪湾の環境がどの様に変化しているのか、少しでも知っていただければと思っています。

 地曳網の対象魚であったカタクチイワシについて資料を付けます。

カタクチイワシ 

 カタクチイワシは西太平洋の北海道南千島沖から南シナ海に分布しますが、どちらかといえば日本の南半分に多い魚で、沖合から内湾の表中層に群れを作って棲んでいます。大阪湾のものは紀伊半島以西、四国、瀬戸内海、九州東岸に分布する集団に属し、春から外海生まれの卵・仔稚魚~成魚が来遊し、大阪湾で越冬したものに加わります。春に黒潮が接岸していると、外海からの来遊にプラスに働き、春からの漁が好漁になることがあります。暖かい海では周年産卵し、水温と栄養条件がよいと同一個体が産卵を続けるので、年に1回しか産卵しないマイワシに比べ、非常に生産効率の良い魚です。昼間は濃密な群を作って泳ぎますが、夜はやや散開して泳ぎ、産卵は日没後に雌雄が追尾して行われます。卵は楕円形の分離浮遊卵(1.6×0.7mm)で、8cmの親で約2千、13cmの親は1.5万粒の卵を産みます。ふ化仔魚は全長3.7mmで、半月で2cm、1ヶ月で3cm、2ヶ月で5cm、3ヶ月で6.5cm、6ヶ月で8.5cm(産卵可能)、1年で11cm、1年半で15cmと、成長が早く、寿命は2年余りです。大阪湾では春から晩秋までシラスがみられ、春シラスは外海生まれ、夏シラスは春に来遊した親と湾内で越冬した親が生んだもの、秋シラスはこれらの親と春シラスの成長したものが産んだものです。昔から大阪湾は栄養分が多く、莫大な量の植物・動物プランクトンが発生し、これらを食べるカタクチイワシが大量に育ちます。このため、カタクチイワシは常に大阪湾の漁獲量の大きな部分を占め(1~2位)、これらは赤潮が頻発する湾奥域にエサが多いので集中し、鰯巾着網やぱっち網などで漁獲されます。

 カタクチイワシは表層を泳ぐため、空から襲う鳥や下から襲う肉食魚から見えにくい様に、背が青黒く、体側~腹が銀白色で、その上をはげやすい円鱗が覆っています。体は細長く、吻が前に突き出し、目は頭の前方にあって、上あごは動かず、下あごだけが下方に大きく開き、鰓の内側にある鰓耙(さいは)を網の様に使って動物プランクトンを濾しとって食べます。カタクチイワシという名は下顎しかないように見えることに由来します。

 昔から人々に馴染み深い魚であり、背黒鰯(セグロイワシ)、金山(カナヤマ)、ヒシコイワシなど多くの地方名があります。成長段階によっても名前が変わり、仔魚(3cm)を「シラス」、体色が出てきた稚魚(4cm)を「カエリ」、全長4~7cmを小羽、7~10cmを中羽、10~15cmを大羽と区分します。商品名では仔魚をシラス、ドロメ、茹干しは縮緬の布の表面に似るのでチリメンジャコ、カエリや小羽の煮干しは田作り(タヅクリ)や五万米(ゴマメ)と呼びます。カタクチイワシはマサバ、サワラ、タチウオなどの肉食魚や、アジサシ、カモメなどの鳥類、イルカや鯨、イカなどのエサになり、海の生産を支える重要な生物です。大阪湾のイワシにはマイワシ、ウルメイワシもみられますが、いずれも敵から身を守るために密集した群れを作ります。群れは先頭になった魚に後続が続き、めまぐるしく先頭が入れ替わって敵の攻撃をかわします。捕食者は群れたイワシには狙いが定まらず、群れに突っ込んでは散らばらせ、はぐれた個体を襲って食べます。

 イワシには脳を活性化させ高血圧や肝機能を改善するDHAやEPAなどの不飽和脂肪酸、骨や血になるカルシウム、鉄、亜鉛などのミネラル、ビタミンA・B1・Dなどの健康成分が多く含まれます。鮮度の良いものは刺身や寿司、酢じめ、煮付けにするほか、釜揚げ、たたみいわし、煮干し、みりん干し、目ざし、アンチョビ(植物油漬け缶詰)などに加工されます。それ以外にも魚の養殖やかご網などの漁業用餌料、家畜飼料の魚粉、ほしか(肥料)などに用いられます。大阪湾で大量に獲れ、安くて新鮮で健康に良いイワシをぜひ味わってみて下さい。

大阪湾の新鮮な魚介類を食べましょう。

大阪市立自然史博物館友の会会長 鍋島靖信

ネイチャーおおさか 公益社団法人 大阪自然環境保全協会

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