2015.5.27 『にぎやかな田んぼ』新刊!

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当協会会長の夏原由博編著による『にぎやかな田んぼ』が発刊されました。

お米はこうしてつくられるなど基礎的なことから、「イナゴが跳ね、鳥は舞い、魚の泳ぐ小宇宙」を調べた研究成果を分かりやすく紹介しています。「トキが棲める田んぼをつくることによって救われるのは、トキではなく農家自身だ」の言がピッタリです。「文化の破壊」の警鐘と、「人類の未来」への慧眼に!

編者紹介

夏原由博 なつはら・よしひろ/名古屋大学大学院環境学研究科 教授
京都大学博士(農学)。公益社団法人大阪自然環境保全協会会長。

研究テーマ:
農村や都市など人が生活する場での生物多様性の保全について研究

著作・論文ほか:
「空間の保全生物学」夏原由博『地球環境と保全生物学』浅島誠・黒岩常祥・小原雄治(編) 岩波書店 2010. Natuhara, Y. 2013. Ecosystem services by paddy fields as substitutes of natural wetlands in Japan. Ecological Engineering 56: 97-106.

「はじめに」から抜粋

赤とんぼがいなくなる。そんな兆きざしがあらわれている。トノサマガエルやメダカは、すでに絶滅危惧種とされてしまった。長く田んぼで暮らしてきた生きものたちだ。

日本の田んぼは、5,000種を超える生きものに生きる場所を提供してきた。田んぼが支えてきたのは、生きものだけではない。雨水を貯えることで下流の洪水を緩和し、あるいはうつくしい景観を提供するなど、多面的な機能をそなえる。その経済効果は年間8兆円に達するともいわれている。

生きものたちが田んぼから失われつつあることは、人間社会の未来への警告でもある。赤とんぼが減少している原因は、「環境に優しいから」と使われはじめた農薬が、卵からかえったばかりのヤゴには優しくなかったことが原因だ。圃場整備にともなう冬期の乾田化も、産卵場所の減少や越冬卵の死滅を招いている。生産の拡大と環境保全のジレンマという日本の農業の古くからの課題の象徴であるともいえる。

田んぼと農村は、食料を生産するだけの場所ではない。人が生まれ育ち、暮らす場所でもある。食料自給率の低下とともに寂れてよいというものではない。田んぼの生きものたちは、たとえ経済的な価値を産まなくても、地域をささえる役割を発揮している。

農業は食料生産を担う産業であり、農家の経営が成りたたなければならない。大規模化、効率化は必須であろう。しかし、畦のない田んぼやコンクリート張りの深い水路は、生きものの生きる場所を奪う。近代化した田んぼも、生きものたちに配慮することは可能であるはずだ。田んぼは工場ではない。田んぼ自体が生態系の一部である。周辺の生態系と調和した工夫が必要であり、地域と田んぼの生態系についての詳しい知識が蓄積されなければならない。本書は、その一助となることを願っている。 

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