都市と自然誌抜粋(トピック)No_446_201305
大阪湾Year2012-2013
文 山西 良平(大阪市立自然史博物館 館長)
海洋はかつてカンブリア紀に爆発的に進化・放散したさまざまな体制の生物を育む生命の源である。陸上にすむ私たちは磯や干潟に出かけることによって、海で生活する多様な生物のじっさいの姿・感触を知り、私たちとはまったく異なった生物が地球上にさまざま存在することを体験的に会得することができる。しかし、都市域に生活する大多数の住民はこのような機会に恵まれることがなく、特に子どもたちのあいだでは、海岸の多様な生物と一度も触れ合うことなくそのまま大人になってしまうことが常態となっている。これは海岸に限らずおそらくどのような自然環境についても全般的に当てはまることであり、都会では深刻な「自然離れ」が蔓延している。
大阪湾とその沿岸域では、全国的な都市再生プロジェクトの一環として、国土交通省近畿地方整備局と地元自治体により「大阪湾再生行動計画」(10カ年計画)が平成16年に策定され、それに基づく行政と研究者、市民の連携が広がった。中でも大阪湾沿岸各地の地域で独自の活動をしているさまざまな市民団体が、行政の支援のもとに「大阪湾見守りネット」を結成し、過去9年間に「ほっといたらあかんやん!大阪湾フォーラム」をはじめとする交流活動を積み上げながら、相互の信頼関係を醸成してきた。
このような流れの中で、平成20年以来、行政・研究者・市民団体代表で構成される大阪湾環境再生連絡会が広く市民団体に呼びかけた「大阪湾生き物一斉調査」が実施されるようになり、毎年春の大潮の時期に、大阪湾各地で共通のマニュアルによる大規模な市民参加型の海岸生物調査が繰り広げられている。昨年の第5回調査には大阪湾沿岸域の20地域において1,328名が参加し、合計503種にのぼる海藻やさまざまな動物を記録した。今年も6月8日を中心に第6回の調査が予定されている。成果はその年の9月に開催される「結果発表会」を通じて参加者の間で共有され、データは国土交通省神戸港湾空港技術調査事務所によるウェブサイト「大阪湾環境データベース」に蓄積され、公開される仕組みになっている。参加団体の多くは「大阪湾見守りネット」の構成団体であり、過去9年間の交流の蓄積がこの一斉調査の原動力となっている。多数の市民が参加して地元の海岸の生物を自分たちで調査することは画期的であり、その意義は大きい。このような一連の活動の原動力となってきた「大阪湾再生行動計画」が平成25年度に10年計画の締めくくりという大きな節目を迎える。そこで、今後に繋げるために、行政、研究機関、市民団体、博物館などの関係者が発起人となって、昨年来“大阪湾Years2012-2013”を提唱し、大阪湾に関するさまざまな取り組みをこの時期に集中し、大阪湾の環境再生に対する市民の関心を呼び起こすことを各方面に呼びかけているところである。詳しくは国土交通省近畿地方整備局(大阪湾再生推進会議事務局)のウェブサイトをご覧いただきたい。