都市と自然誌抜粋(トピック)No_449_201308_3

特集 陶器山を歩く(下)

文・写真 小西 絹子(あまの街道と陶器山の自然を守る会)

 2010年末、突然伐採が始まり、間伐かと思う間もなく年末年始の慌ただしさが明けるや金剛山の眺望を遮っていた谷向こうの山一帯(現在の今熊4丁目付近(地図のA))が禿げ山になっていた。「エーッ!何するの!せっかく気に入って歩いている山やのに!」谷を下り、ブッシュをかき分け、伐採業者に聞きに行くと、間伐や、植林ではなく造成だと言う。

 そこで市民の声を、市民の力を見える形にしよう、と山で署名活動が始まった。しかし署名活動は遅々として進まない。原因は後で徐々に分かってきた事だが、当該地域が「私有地」であり、ウオーカーにも近隣山域の地主や「ご近所さん」が少なくなかったからだ。そこで、署名活動を地域、街、堺市、友人知人に広げることにした。山歩きをしない人たちには、素人細工の「陶器山ニュース」の発行に及んだ。見知らぬ者同士が、署名活動を通じて仲間になり、当該地域を、地権者の名前を勝手に借りて「ツバサの森」(写真-2、地図のB)と名付けて活動を始めた。

 最終的には、人口58,000人の大阪狭山市で13,000余名の署名が集まった。充分迫力ある数字ではないか。2011年4月に市へ提出した。だが甘かった。その後の行政の動きに何ら反映されることはなかったからである。要望書、署名簿、嘆願書…金剛コミュニテイ(新聞)も取り上げてくれ、市長面会(2011年2月)には読売新聞も取材に来てくれたが、当該地域が市街化区域という壁は厚かった。

 しかし、諦めるには陶器山はあまりに美しい。やはり、せめてこのまま、守りたい。第一この景観が壊れたら、毎日歩く私の楽しみが…!何か方策はないものかと、林野庁(近畿・中国森林管理局)、大阪府庁、堺市役所にも行き、元府議の知恵も借りに行ったが、ネックは「私有地」であることに尽きた。

 行政を動かす近道は市議会か。解決策として考えられる限りの項目を書いて陳情書を提出し(写真-3、2011年7月)、議会で取り上げてもらえるよう市議15名と市議会議長にアプローチした。こんな小さい町の市議は利害錯綜する後援者の目を意識せざるを得ない。特に地権者同士の誼(よしみ)もあり、また当の市議が地主の立場であれば、私有権の保護は死活問題でもある。結局、実質的な協力も得られず、「幹事長会議の結果、継続審議」決定(2011年12月)。それでも、返書には「…(通称ツバサの森)の保存に関して…」と地権者の名前を付けた当該地域名を地番と共に併記してくれるまでにはなった。一定の前進はあったのだろう。

 2011年11月に、当該地域を含む市有地の山域の名前を冠した「今熊市民の森保全会議」が結成された。構成員は市民、市会議員、南中円卓会議、あまの街道と陶器山の自然を守る会。この2013年5月で既に19回の寄合を重ねている。勿論、保全会議では当初の問題解決には至らないが、環境に関心を持つ市民の存在を示す場になっている。月一回の保全会議の活動では片付かないので、草刈り、倒木・立ち枯れ始末、間伐、枝打ち、ゴミ拾いなどはほぼ毎日自主的に行っている。私たちの存在も認知されだした面もあり雰囲気も変わりつつある。

 大阪狭山市にとっても陶器山を含む一帯は重要なみどりの拠点として位置づけられており、「緑の基本計画」の中でも「多くのため池や陶器山丘陵等のみどりは、郷土景観を構成したリ、生態系を育む貴重な空間であるため、市民のみなさんが恵まれた自然環境にふれあえる場として、今後とも保全に努めます。」と述べられている。これが絵にかいたモチに終わらないように…

 2011年3月には市街化区域の街道沿い13haが地権者20家との合意に達して、市街化調整区域に変わった(地図のC)。また、造成地の東北端6,611㎡を購入して緑地宣言した(地図のD)。市のホームページには「陶器山丘陵は、自然のままの植生が残っており、今後陶器山の保全について、市民と一緒に考え、活動を行っていきます」と書かれてある。市は鋭意、用地確保の努力中とのことであり、緑への姿勢は徐々に見えてきた。

 私は、泉北ニュータウン造成時、細長い陸の孤島のような森林域が残されたのは、考古学者にして大阪狭山市の名誉市民たる末永雅夫氏が存命だった事による奇跡であると強く思っている。ごくありふれた里山が、千年昔の一大窯業(須恵器)地帯の東限域としての位置づけを持っていたからである。

 これだけ喧しい市民の活動を受けながら、ツバサの森は依然私有地である。「地権者の思い一つ」の運命は変わらない。市有地に出来ないのなら、せめて地権者が、その名を愛しんで「ツバサの森」の永遠を許してくれないものか、と経済音痴の夢見るおばさんは思うのだが…

 

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