都市と自然誌抜粋(トピック)No_449_201308_1
Tomorrow 生物多様性保全とESD
文 成山 博子(NPO法人大阪府民環境会議スタッフ/近畿環境パートナーシップオフィス勤務)
2010年10月、愛知県名古屋市で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催されたことは、まだ記憶に新しいかと思います。
COP10の成果のひとつとして、生物多様性の損失を止めるための具体的な行動目標である愛知目標(20の個別目標)が決まりました。目標の1番目に「遅くとも2020年までに、生物多様性の価値及びそれを保全し持続可能に利用するために取り得る行動を、人々が認識する。」とあります。
この愛知目標1にも大きく関連しますが、「持続可能な開発のための教育(Education forSustainable Development/略称ESD)」が世界で進められています。ESDとは、持続可能な社会の実現を目指し、私たち一人ひとりが、世界の人々や将来世代、また環境との関係性の中で生きていることを認識し、よりよい社会づくりに参画するための力を育む教育です。2014年11月には、岡山と愛知で「ESDに関するユネスコ世界会議」が開催される予定です。
ESDは持続可能な地域づくりを考えるうえで重要なキーワードです。なぜ生物多様性を守らなければならないのか。このままでは私たちの暮らしはどうなってしまうのか。生物多様性を守るために、何ができるのか。このような問いを自分事として考え、それぞれの立場において行動できる人が育つよう社会のしくみとして整えていくことが求められています。地方自治体による「生物多様性地域戦略」の策定もしくみのひとつと言えます。しかし言葉を変えると、戦略という枠組みができても戦略を推進する人が育たなければ生物多様性は守られないでしょう。戦略として指針をとりまとめるのは行政であったとしても、生物多様性豊かな持続可能な地域づくりの担い手は地域の住民、NPO、事業者、行政、学校等様々な地域の構成員であり、多様な主体の積極的な参画とお互いの協働が欠かせません。
「まずは知ること。知ると好きになり、好きになると守りたくなる」。これは、植物の専門家であった今は亡き恩師に教わった言葉です。ESDを分かりやすく伝えてくれる言葉だと感じています。例えば、身近な動植物について関心を持つきっかけをつくることによって、生物多様性保全の活動につながることが期待されます。また、人と自然のつながりに加え、人と人、自然と文化など様々なつながりを意識した生物多様性保全のしくみづくりが進むよう異なる主体が対話を通してそれぞれの立場を理解し、知恵や力を出し合うことによって1+1>2になるという意味もこの言葉から私たちは学ぶことができると考えています。