都市と自然誌抜粋(トピック)No_443_201302_2
「都市と自然」誌2013年2月号の内容を一部ご紹介します。このページは特集シンポジウムの続きです。
特集(続き) 里山自然公園の計画と管理
文/ 藤原 宣夫(大阪府立大学大学院・生命環境科学研究科教授)
里山の自然によって伝え残したいもの
私たちの世代の多くは、里山の自然の中での遊びを原体験として持ち、雑木林(ヤマ)と水田(ノラ)と集落(ムラ)からなる農村をふるさとのイメージとしています。今の和泉市に昔ながらの農村景観を期待することはもちろん無理なことですが、居住地近傍に里山があることは、子供たちの自然体験、環境学習の場としてとても有意義なことであり、多くの生き物が暮らせる場所を保つことは、今、世界中で課題となっている生物多様性を守ることといえます。
私たちの周辺から里山が消滅し始めた原因は、宅地やゴルフ場へと開発されたことはもちろんですが、マキ・炭から石油・電気へとエネルギーの転換が生じたこと、堆肥から化学肥料へと農業形態が変化したことが大きく係わっています。このような変化は里山の経済的価値を低下させ、管理の放棄を導き、荒廃した山は相続を契機に開発される運命をたどることが多くなります。
一方、里山の価値が理解され、行政も里山保護のため法令によって開発を規制しようとします。しかし、里山は開発を防止しただけでは護ることはできません。里山の自然は人が管理することによって維持されている二次的自然だからです。
二次的自然には多くの動植物が生息していますが、里山の減少、荒廃とともに生息地を奪われ絶滅に瀕しているものも少なくありません。一例をあげるならスプリング・エフェメラルと呼ばれる春植物があります。春植物は良く手入れされた落葉樹林の林床に、木々がまだ葉を展開しない早春の内に花を開き繁殖する野草たちです。里山がなくなればこれらの植物は消滅することとなります。
信太山の公園計画と管理
一般的な公園の計画手順では「方針設定」の後、「基本構想」、「基本計画」、「基本設計」、「実施設計」と次第にその精度を高め
ていくのが通例です。基本構想の段階では「ゾーニング」という大まかな区画割と、入口や園内の移動経路を設定する動線計画、そして
基本的な施設の設定が行われます。この過程において重要なことは利用者の意見が十分に検討されるかということです。そして特に里山自然公園の場合は里山を管理する者の意見が十分に検討されるべきです。
里山の自然環境は公園という枠に収めただけでは守ることはできません。堆肥にする草や落ち葉、たきぎにする柴を刈る行為が里山を維持してきました。公園として公有地化されたのだから、里山の管理も行政にすべてまかせるというのは、あまり得策とはいえません。行政が得意とする管理は法的な管理と一定ルーチン作業にすぎません。自然環境の管理は、毎年の気象などによって変わる木や草の育ち具合に応じた順応的管理(adoptive management)が理想とされます。そしてこのような管理は地域住民の参画によって行われるべきです。
里山の計画や管理は柔軟なものであるべきです。厳密な設計図がなくとも公園は作れます、植生を管理することが公園を形あるものにしていきます。また管理は生産のためというわけではなく、雑木林の選択的な伐採により美しい花の風景を創ることもできます。里山の管
理、公園づくりは、それ自体が楽しいものでなければならないと考えています。
信太山丘陵の草地・湿地を守るための課題と対策
文・写真 /畠 佐代子(草地生態系研究会代表/全国カヤネズミネットワーク代表)
シンポジウム「市民による信太山丘陵(市有地)の保全と活用計画」において、パネリストとして参加させていただきました。私からは、パネルディスカッションの話題提供として、本シンポジウムに先立って9月に開催された第1回草地生態系研究会「信太山丘陵の草地をどう守り維持していくか?」(「都市と自然」12月号に報告)の開催報告と、信太山丘陵の現地を歩いた感想を交えて、自然環境を保全する上での課題と対策について意見を述べました。要点を以下にまとめます。信太山丘陵の自然環境保全上、特に対応が必要と考えられる点です。
1.ネザサの繁茂
信太山丘陵を歩いて一番目についたのはネザサでした。もともと信太山丘陵は草地の豊かな環境でしたが、草地の管理放棄で遷移が進み、1980年代にススキ・チガヤ草原だった場所にネザサが繁茂しています。その結果、ウスバカマキリ、キキョウ、セッカなど草原性の動植物が見られなくなってきています。
2.樹林化の進行
自衛隊に植樹されたトウネズミモチやアラカシが成長して、1970年代に草地が広がっていた区域は、現在うっそうとした樹林地になっています。樹林地内は暗く、林床まで光が届かないため、草本植物が育ちにくい環境です。
3.惣ヶ池湿地における外来種の定着・繁殖
惣ケ池湿地では、キショウブやスイレンが植栽されています。さらに、アメリカザリガニやウシガエルが繁殖して、在来種との競合や捕食などの影響が懸念されます。溜め池はアメリカザリガニの影響で泥水色に濁り、ウシガエルのオタマジャクシが多数確認できました。
今後の対策
第一に、ネザサの刈り取りと外来樹種の伐採による草地環境の再生。特にネザサ対策は、早急に実行に移す必要があると思います。第二に、ウスバカマキリ、セッカ、シソクサなど、再生の指標となる生物を設定して、その生物が安定して生息できる環境を管理目標として、管理計画を立てること。どのような草地・湿地を再生したいのか、具体的なイメージを持つことが大切です。さらに、草地再生のためのネザサの刈り取り試験について、提案しました。方法としては、ネザサが優占する区域に5m×5m程度の試験区を複数カ所設置して、刈り取り時期と回数を変えて刈り取りを行い、最適な組み合わせを調べてみる。ネザサは冬と夏に刈ると勢いを押さえられるという研究結果もありますが、信太山の状態に最適な刈り方を確かめるためには、実際に幾つかのパターンに分けて刈り取りを実施して、植生の変化を追うことが大切です。