都市と自然誌抜粋(トピック)No_443_201302
「都市と自然」誌2013年2月号の内容を一部ご紹介します。
特集 シンポジウム 「信太山丘陵(市有地)保全と活用計画」開催される
2012年11月23日
文/花田 茂義 (信太山に里山自然公園を求める連絡会 事務局長)
和泉市信太山丘陵保全へ
2012年6月、和泉市は信太山丘陵の市有地の開発をめぐり、スポーツ施設の建設計画を改め、私たちが要望してきた自然環境の保全と活用の方向に大きく方針を切り替えました。一昨年、みなさんといっしょに進めた請願運動と議会の誓願採択が大きく影響した結果といえます。
2012年9月、和泉市は信太山丘陵市有地の保全と活用検討委員会を市長の諮問機関として発足させました。検討委員会は、学識経験者3名、市民応募3名の計6名で構成され、信太山丘陵市有地の適切な保全方法及び活用方法について調査審議するとされ、5回の審議で基本方針を策定することになっています。(最終委員会2013年1月30日)
シンポジウムの計画
和泉市の保全・活用への動き、検討委員会の発足の状況を受けて、ここ数年、毎年秋に開催してきた「市民の集い」または「シンポジウム」をどうすべきか7月以降数回にわたって連絡会運営委員会で議論してきました。
「シンポを開いても、市民への広がりは早急に望めないのではないか」、「検討委員会に対抗・対立することにならないか」など、消極的な意見や気遣いもありました。
そうした議論を経て、①シンポの報告・講演は今の信太山の具体的な課題に応えるものを ②里山自然公園を呼びかけてきた立場から
私たち自身が保全や活用に関わる力量を高めよう。 ③検討委員会は、具体的な内容までは無理であり、市民の中での学習はその補完
や激励にもなる。と位置づけし、シンポの開催を決定しました。
講師の依頼
講師にはお二人の先生方が候補に挙がり、内容を含めてそれぞれ数回にわたって打ち合わせを行いました。お一人は、かつて府大在任中信太山湿地を調査された夏原先生。あとお一人は公園作りに長年携わってこられた藤原先生にお願いすることにしました。
シンポ当日は悪天候で参加者が少ないのではという不安は、80名以上の参加者を得て吹っ飛びました。全国カヤネズミ・ネットワーク代表の畠さんを加えてのパネルディシュカッションも熱心に行われ、参加者の中学校の先生から「小中学校としての今後の取り組み」の決意が語られ、参加者から大きな拍手を受ける場面もありました。
参加者の多くが「湿地の保全」や「公園作りの仕組みがよく分かった」とアンケートで答え、「このような機会をつくり公民協働の地盤作りをされていることに感謝します」との回答を得て、今回シンポジウムをやって良かったと改めて感じました。
なお、今回のシンポジウム開催に際し、諸経費、宣伝費などは、公益社団法人大阪自然環境保全協会の助成金(特定自然保護活動推進支金)で賄いました。深く感謝申しあげます。
湿地の植物・生き物の保全
文・写真 夏原 由博(会長、名古屋大学大学院 環境学研究科 教授)
湿地と湿地の植物
信太山には湧水湿地がある。湧水湿地とは、斜面が崩壊した場所や崩壊土砂が堆積した谷底面等を湧水が涵養することにより成立している湿地である。
信太山の地層は、数十万年から100万年くらい前に川や海底で堆積した土砂でできている。海底で堆積した粘土層の上に砂礫が堆積すると、粘土層は雨水を通しにくいので、砂礫層を地下水が流れ、どこかで地上に湧き出てくる。湧水湿地の水質は、一般に貧栄養で弱酸性であるという特異な性質を示す。土壌は貧弱で、樹木や背の高い木が生えにくく、普通なら競争に負けてしまう植物が生育することができる。モウセンゴケなどはその代表で、土中に乏しい養分を虫を捕らえることによって補っている。大阪府で絶滅してしまった植物で最も多いのは湿地の植物である。信太山で見られる湿地生物には、シソクサ、ミミカキグサ、カスミサンショウウオなど大阪府内では希にしか見られない種が多い。
湧水湿地は、規模が小さいため、小さな開発によっても消滅してしまう。特に、傾斜が緩やかな台地や丘陵地にある湧水湿地は、都市化やゴルフ場建設などの影響を受けやすい。愛知県豊田市の湿地は、点在する3つの湿地を合わせることによって、2012年にラムサール条約湿地として登録できた。
湧水湿地の保全管理
保護地となっている湧水湿地の保全管理上の課題としては、(1)遷移による植生変化、(2)湿地・湿原の利活用、(3)湿地を支える仕組みの構築がある。
(1) 周辺の森林の樹高が高くなることや湿地内への樹木の進入によって照度が低下する。周辺林生長による湧水量減少、土壌の堆積、流路侵食による地下水位低下などが生じることがある。そのため、遷移のすすんだ植生の除去と表土剥ぎ取りが必要な場合がある。日常的な管理作業としては、伐採、除草、巡視、外来種除去などがある。
(2) 一部で盗掘などが起きているが、大きな問題としては認識されていない。最大の問題は、木道外への立ち入りによる踏圧だとされる。
また、本来そこに分布していなかった植物の持ち込みが問題となっている。湿地を常時開放するか、非公開として特定の公開日を設けるかは、利用者数や周辺環境によって決めれば良い。
(3) 保全活動を担う人材の確保・育成が必要である。特に、保全活動団体をとりまとめ総合的な判断をするリーダーや、湿地の生態系全体を眺めながら追跡調査ができる人材が必要。利活用のための施設整備、除草等の日常管理、モニタリング調査等には相当な費用が必要であり、行政等による支援体制が必要。さらに、関係する諸団体の調整も重要である。
もう少し詳しい資料は、下記からダウンロードできる。
http://www.info.human.nagoyau.ac.jp/~natu/sinodayama.html