都市と自然誌抜粋(トピック)No_442_201301_1


  「都市と自然」誌2013年1月号の内容を一部ご紹介します。

Tomorrow 

地域らしい生物多様性の再生 

          夏原 由博 (なつはら よしひろ 会長・名古屋大学教授)

 昨年発表された、環境省のレッドリストで、トノサマガエルが準絶滅危惧種に指定されました。私が子供のころは、水田に行くと殿様蛙といぼ蛙(多分ツチガエル)がいて、捕まえて遊んだものでした。トノサマガエルはごく普通の生きものだったのです。会員の皆さんの多くは、同じような記憶があるのではないでしょうか。しかし、絶滅危惧種になってしまったトノサマガエルを保護するのは、ミズバショウやライチョウを保護することよりずっと大変です。なぜなら、生息場所を保護区とすることができないからです。トノサマガエルが住む水田は、個人の土地で、米という製品をつくる場です。農家や消費者が蛙や他の生きものがいることを容認する必要があります。むしろ生きものがいる水田でできた米が高く評価されなければなりません。実は、そんな仕組みをつくることがあちこちで試みられています。私が生まれた滋賀県では、フナやナマズが水田で産卵できるように魚道をつくり、農薬も減らすことをしています。そん
な水田でとれた米を、魚のゆりかご水田米と認定して売っています。

 圃場整備をして農薬や化学肥料を使うと、生産が増えるだけでなく、マニュアル通りの作業で済むようになります。ところが、有機肥料を使ったり、生きもののことを考えた水管理をしようとすると、地域ごと、田んぼ1枚ごとに農作業を変えなくてはなりません。自然はどこも同じところがないからです。

 ところで、保全協会が全国に先駆けて行った活動に、里山保全があります。里山保全には、2つの意義があるように思います。ひとつは楽しみとしての活動です。暗くて踏み込むこともできなくなってしまった林を間伐、下草刈りによって明るくする。すると、コバノミツバツツジやササユリの花も咲きだす。管理手法は1990年代に全国に広まりました。仲間との共同作業に汗を流すことが成果になっていくことは楽しいことです。

 里山保全のもう一つの意義は、地域らしさの再生です。地域らしさとはその地域にしかない自然や文化(生活)です。里山はどこも同じと言うことはありません。それぞれの自然や文化の歴史を持っています。昨年、テレビドラマで「遅咲きのひまわり」というのがありました。生田斗真が演じる主人公は、四万十市で地域起こし協力隊という仕事についていました。これは実際に総務省が始めた事業です。応募者の中から選ばれた人を、3年間、地方自治体で雇用します。
地域資源を利用した仕事をしてもらい、任期終了後も地域に永住してもらう。たまたま、総務省のセミナーに出席する機会がありました。協力隊員にはマニュアルはなく、東京から来て林産物の開発と普及に努める人、古い商家を利用した交流と地域物産の販売、農業法人をつくって棚田を再生している人など様々です。テレビドラマ以上の物語があります。土木事業でなく、人づくりを通じて地域を元気にする試みがなされていることは素晴らしいことです。
 保全協会は、里山保全活動など多くの地域活動によって成り立っています。地域の歴史を読み、これからの物語を書くことを大切にしたいと思います。

ネイチャーおおさか 公益社団法人 大阪自然環境保全協会

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