都市と自然誌抜粋(トピック)No_442_201301_2
「都市と自然」誌2013年1月号の内容を一部ご紹介します。
よもやま図鑑77
は虫類 ヘビ(蛇)
文・写真 早川 篤 (理事)
ヘビはトカゲ目(有鱗目)ヘビ科の爬虫類の総称であり、南極を除く世界各地に広く分布し、郊外に出れば出会う機会が多い動物だ。しかし、忌み嫌われるか畏れられ、多くの人に好かれているとは言えない。
ヘビが畏れられている理由に、まばたきをしないという事がある。大多数のヘビにはまぶたがあり、それは目を覆っていて動かない。だから、まばたきをしないのではなく、する必要がないのである。また、ヌルヌルしている印象があるようだが、これは勇気をだして触れば簡単に解決する。しかし、触った時にヒヤッとした感触はある。シマヘビの平均体温は29℃で冷たく感じる。ついでながら、シマヘビの寿命は飼育下では12年。
2013年は、巳年。ヘビではなく“ミ”と読む。古くは口縄とも言われた。上町台地の一角に口縄坂という名称が今も残る。
関西では神様を、神さんと気安く呼ぶ。えべっさんに天神さん、奈良の大仏様に至っては“だいぶっつぁん”と近所のおじさんのように言う。ヘビも“みぃさん”というと怖さより神々しい印象を帯びる。しかし、どんなヘビでもみぃさんになれるのではない。山口県岩国市では、国の天然記念物として白ヘビが大切に保護されている。かように、白いというのが条件であるらしい。ヴィジュアルだけの問題で、実際の行動に何も変わりはなく、動物に対する人のイメージの決定要因のいい加減さがわかる。
古代、ヘビは信仰の対象でもあった。生命を再生し不死であるといわれたが、それは脱皮に由来するのだろう。脱皮前は目が濁り、皮膚の色もくすんでくる。やがて、口のところから、裏返しに服を脱ぐように引っ張っていく。尾まで裏返しとなったぬけがらは、当然ながら鱗の間の皮膚が延び本体よりも大きくなる。よく見ると、まぶたもちゃんとある。脱皮後は、艶々の新しい生命が再生したような印象を与えたのだ。
ヘビのイメージダウンの一つに、仏教の輪廻転生を解く六道絵のうちの畜生道への登場があるだろう。そこには、狩猟者→イノシシ→ヘビ→カエル→ミミズと殺生していく図がある。そういう事をすると、畜生道へ落ちるというのだ。現在の薄っぺらな自然保護思想を表わすようでもあり、可愛そうという感情をあおり、自然を冷静に見る心を削ぐ。残念ながら、日本人の心に深く入り込んでいる教えなのかもしれない。一方、この絵で興味深いのは、ヘビが食べるのはカエルだというところ。ヘビは小型哺乳類の出現以降にトカゲから進化した案外新しい科で、そこからもわかるように小型哺乳類を獲物としている。欧米ではヘビの食べ物はネズミといい、日本ではカエルという。日本にいかに両生類が多いかということだ。命は食い食われて繋がっている。それは、感情や良い悪いの世界ではない。ヘビもカエルも人間も、それぞれの生き物が棲める環境を保全していきたいものだ。