〜余野川ダム事業中止意見表明の要請〜
大阪自然環境保全協会では、淀川水系流域委員会委員などに対し、余野川ダム建設などの事業を中止とする意見を「淀川水系河川整備計画」の中に表明するよう要請しました。要請文は以下の通りです。
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2002年9月24日 国土交通省近畿地方整備局 淀川水系流域委員会 委員各位 淀川水系流域委員会猪名川部会 委員各位 社団法人 大阪自然環境保全協会 余野川ダム事業を中止とする意見表明の要請 謹啓 淀川水系流域委員会ならびに同委員会猪名川部会の各委員におかれましては、国土交通省近畿地方整備局の策定する 「淀川水系河川整備計画」 に関する審議にご努力され、敬意を表します。 ご承知の通り、国土交通省が大阪府箕面市下止々呂美において進めている余野川ダム事業は 「淀川水系河川整備計画」 の対象となっています。 私たちは2001年12月以来、この事業が、治水面、利水面で必要性が乏しいうえ、さらに自然環境と財政に対する負荷がきわめて大きい事業であるため、淀川水系流域委員会ならびに同委員会猪名川部会委員の方々に、この事業を同計画に位置づけず中止とする意見を表明していただき、国土交通省・近畿地方整備局・猪名川総合開発工事事務所に具申していただきますよう要請してきました。 さて、2002年10月には淀川水系流域委員会が「最終提案」をされ、その後、近畿地方整備局が 「河川整備計画原案」 を作成しますが、その中で、余野川ダム事業を継続して位置付けることは、当局側の発言(9月12日)によって明白になっています。 これは、これまでの同委員会・同猪名川部会において、余野川ダム事業についてはほとんど審議されず、さらに「中間とりまとめ」には取り上げられていないにもかかわらず、当局が独断で事業を進めることを決め、同委員会・同部会をないがしろにしていると言うほかありません。 余野川ダムの利水面における不必要性は、別途、的確な指摘 (意見) が 「関西のダムと水道を考える会」 から水需要管理WGに提出 (2002年9月10日) され、また環境負荷面での不必要性は私たち7団体の要請書 (2001年12月3日付) のとおりですが、治水面における不必要性について別紙のとおり再度指摘させていただきますので、今後の同委員会・同部会において、このダム事業を同計画に位置づけず中止とする意見を明確に表明されますよう要請致します。 謹白
【治水面からみた余野川ダムの不必要性】 1.実態にそぐわないダム計画 近畿地方整備局に行政文書の開示を請求し公開された 「名川流域治水計画策定資料」 および 「余野川ダム洪水調節計画策定資料」 によると、両計画はいずれも30年前後も前である昭和40年代に策定されたものであり、余野川ダム事業はその後の降雨や洪水の状況、河川改修の進捗などの要素を考慮せずに進められようとしています。これは、淀川水系流域委員会・各部会の 「中間とりまとめ」でも述べられている、今後の目指すべき河川整備計画の在り方に反しています。 ●こうした点については、猪名川と余野川は現況の河道形態になって以来、河道計画の変更を迫られるような深刻な水害を引き起こしたことはなく、疎通能力と堤防の安全性をさらに向上させる工事が行われているという状況があります。 ●余野川は、猪名川への合流点まで一貫して築堤区間のない掘り込み河川で、河川が現況に整備されてきた過程で、長時間浸水のような深刻な水害を生じていません。 ●余野川合流点から下流の猪名川は、合流点の直下流部の河積拡大工事が完工しています。それよりも下流は現況の河川に形を整えられて以来、破堤や、溢水に近い水位が記録されたことはなく、藻川分派点までの河川敷は広く、必要に応じて低水路の拡幅は容易に図れるため、一庫ダムと併せて河道内で洪水流を処理することは容易です。 2.やはり大きすぎる基本高水量 主な洪水は、昭和28年、35年、42年、47年、58年、平成元年、11年などと記録されています。 ●余野川合流点の猪名川の基本高水毎秒3500トンに対して、既往最大洪水は昭和28年9月の毎秒約1650トンで、2.1倍にもなります。 その後、毎秒1400トンに迫る洪水が何回かありますが、ダムカット後の毎秒2300トンの計画高水ですら既往最大流量毎秒約1650トンの 1.4倍もあり、基本高水は高すぎます。 ●ダム計画時点までの流域平均最大日雨量の順位は、上記の既往最大流量を記録した昭和28年の142.2mmが8位で、1位・昭和35年の320mmと3位・昭和42年の176.2mmの流量は昭和28年よりも小さく、毎秒1360トンと1363トンで、昭和28年降雨が集中豪雨的であったことをうかがわせます。 ●上記3降雨パターンを使った流出計算結果によると、昭和28年降雨パターンを用いた場合の毎秒3500トンは、他の2パターンを用いた場合の毎秒2400トンと1800トンとかけ離れた値です。これは上述のように、昭和28年降雨が集中豪雨の様相であったからと考えられます。 建設省の河川砂防技術基準案 (いつまで経っても「案」ですが) では、基本高水は、算出した時間−流量関係群から、ピーク流量のカバー率が60〜80%の値が適当である旨が示唆されています。流出計算のモデル数が3件だけ示されているので、カバー率はあまり意味をもちませんが、基本高水は、毎秒2400トン程度に採るべきです。 ●また、余野川ダムへの導水路計画地点の基本高水量は毎秒260トンと算出されていますが、この付近の河川の疎通能力は、川幅、川の深さ、河床の粗さ、川の曲がり方から見て、せいぜい毎秒100トン程度です。この計画流量では、導水路計画地点上流の河道に大幅な拡幅が必要になります。この計画高水も現実的な値とは言えません。 ●余野川自体は猪名川合流点まで掘り込み型の河川で、余野川自身の洪水氾濫対策にダムは要らないはずです。しかし余野川下流部では、算出基本高水量は毎秒400トンを超えますので、この流量に対して建前上はダムが必要、になってしまいます。猪名川流域に占める余野川の流域面積は約9%で、流路長も短く、猪名川の流量に占める余野川の役割は大きくないので、猪名川本川に対する余野川ダムの治水効果は高くありません。 3.ダム事業を中止し、総合治水の強力な推進を これまで余野川ダム事業については、ほとんど審議されず、さらに 「中間とりまとめ」 には取り上げられていません。近畿地方整備局側によりますと(9月12日)、「河川整備計画原案」 の作成にあたっては、上記のような過去の計画高水量や200年確率などの計画にとらわれないこととしながらも、猪名川部会で示された「壊滅的な被害を避ける」ために 「ダムを」 という短絡的な結論によって余野川ダム事業を進めることを、 「河川整備計画原案」 に盛り込む姿勢を見せています。同委員会・同部会は余野川ダム事業を中止する態度を表明すべきです。 ●猪名川水系では昭和45年頃から河川整備が大規模に進められてきており、またかつての浸水原因である多田地域の塩川合流点付近と、余野川合流点上下流の疎通力向上工事が進んでいます。護岸や橋梁基礎工事は、昭和40年以前のものとは異なり、しっかりしたものが造られています。 ●幅広い川では水深が少し大きくなると流量はそれに比例以上に増えます。猪名川ではかなり背の高い中州が目に付きます。自然環境の立場からも、水環境に関わる川の自然を維持するため、こうした普段流れに曝されない、乾いた陸域を出水で冠水するようにすることがむしろ必要で、これらを除去すれば流下能力や河道貯留量はかなり増えます。 ●猪名川の治水に対しては現行の改修計画を進め、洪水を深刻な水害としないように、破堤しない堤防への整備、調整池・遊水地・浸透設備・森林の涵養能の向上などの流出抑制、内水排除施設などの総合治水をより強力に進めるべきです。 以 上 |
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