(資料)シギ・チドリに関する専門家の意見

守屋年史(NPO法人 バードリサーチ) 2020年9月26日

 

シギ・チドリは、干潟・湿地・砂浜など多様な水辺に生息。多くの種が北極圏などで繁殖、冬には東南アジアやオーストラリアなどに移動する。国内では春に北行きの群れが、秋に南行の群れが観察される。

 

  昭和48年から全国規模での調査が続けられてきた。S48-52日本野鳥の会と日本鳥類保護連盟による「干潟に生息する鳥類の全国一斉調査」に続いてS53-60は日本野鳥の会による「シギ・チドリ類全国一斉調査」、s63-H16は環境省による「定点調査」、H8-10日本湿地ネットワークによる「シギ・チドリ全国カウント」、H11-15環境省による「シギ・チドリ類個体数変動モニタリング調査」、H16-現在環境省による「重要生態系監視地域モニタリング推進事業(モニタリング1000)」。

 

 モニタリング1000のシギ・チドリ調査は全国130か所で実施している。春、秋、冬の3回調査。年間のべ200名の調査員に支えられている。大阪府内にも10か所の調査サイトが登録されているが、今継続しているのは、大阪南港野鳥園と大阪北港南地区(夢洲)。

 

 日本のシギ・チドリ類がどういう現状にあるか。国内で記録のあるシギ・チドリるいは74種、調査内では66種。旅鳥が多く36種、ほか冬鳥14種、迷鳥13種。繁殖する種はシロチドリ、コチドリ、イソシギ、オオジシギ、アカアシシギ、セイタカシギなど12種。

 

 国内のシギ・チドリ類は減少している。春の渡り個体数は2017年を100とすると2000年には170ほどであった。種ごとに見ても減少している種が多い。特に、シロチドリ、タシギ、ハマシギは春、秋、冬とも減少が著しい。地域別にみると東日本、西日本・四国、九州は非常に数が減っている。

 

 大阪南港と夢洲の状況。南港野鳥園は春2005年くらいに多かったが減少している。トウネン、ハマシギ、シロチドリが多い。夢洲は2005年から個体数が減少している。これは工事の進行による。2004年には4000羽が来ており、キャパシティの大きさはある。

 

 日本は東アジア―オーストラリアフライウェイという鳥の通り道に含まれる。最小推定個体数は730万羽。日本は主に中継地。最も絶滅危惧種が多く、人口の多い地域で、急激な生息地の消失が危惧されている。ハマシギではアメリカ西海岸で越冬する亜種は減少していないが、東アジアを通過する亜種は減少している。日本については、タマシギなど水田への依存が高い種が減少している。長期のトレンドでは干潟など生息環境が減少していることがシギ・チドリの減少に影響している。日本の干潟・淡水湿地など生息環境減少を見ると淡水湿地の6割、干潟の4割が過去60-80年間で減少している。大阪湾では92%が消失。これがシギ・チドリがいられない原因になっていると考えられる。

 

 シギ・チドリ類が埋立地をよく利用することはよく知られている。埋立地の養生期には有機物が腐敗によって小動物が発生し、草本などが侵入、雨水がたまるなどして湿地が形成し、セイタカシギなどが利用する。砂礫地はコチドリなどの繁殖場所や休息場所となる。人も入ってこないし、埋め立て地はもともと近くに干潟があったような場所なので、鳥も飛来しやすい。

 

 モニタリング1000での人工干潟サイトは7地点ほどある。個体数としては1割に満たないが、シギ・チドリ類の種数は全体の約75%が観察されている。人工造成された埋立地上にできた湿地でもシギ・チドリの生息環境を十分に満たしている。人工干潟の効果としては、水鳥の生息地を増やすこと、観察施設が併設されレンジャーが駐在することによって一般市民への啓発の場となること、人口集中する都市部における自然保護啓発の拠点となることなどの効果がある。葛西海浜公園やオーストラリアのメルボルン州西部下水処理場の湿地はラムサール条約登録湿地となっている。

 

 国内保護区域指定の現状。干潟の鳥の調査サイト152か所のうち、10.0%が特別地域、27.4%が普通地域、66.7%が未指定地域であった。保護区を増やす必要性がある。

 

 世界の水鳥のフライウェイは9つあるが大きく3つに分けられる。その中でアジア太平洋フライウェイは最も減少している個体群の割合が大きい。

 

 人工干潟は長期的に維持させることが望ましい。管理コストを考えるとできるだけメンテナンスフリーが望ましい。自然干潟の特徴は、(1) 潮の満ち引きがある、(2) 塩分濃度が変動する、(3) 水深が浅い、(4) 傾斜が緩い、(5) 柔らかい泥がたまることである。くるくると変わる環境が多くの生物の生息場所となる。人工干潟の構造として、桑江ら(2012)は、(1) ラグーン型の干潟形状、(2) 複雑な干潟内の汀線形状、(3) 緩い底面勾配と広い潮間帯、(4) 潮間帯上部が泥質、潮間帯中下部が砂泥質、(5) 最干潮時の最大水深が30cm以下、(6) 陸域からの淡水流入、(7) 視界を妨げる障害物がない。ことを提案している。埋立地では、干潟の条件である河川からの土砂供給や淡水の流入が難しいため、土砂流出を防ぐ構造や周辺の雨水などの利用、下水処理水の利用など工夫が必要と考えられる。開放的な環境が必要で、猛禽類が狙うような高い構造物は離す。しかし、人工干潟は決して自然干潟の代替にはならない。樹木の繁茂や干潟の遷移など管理が必要。それまで水鳥が利用していた環境から変化してしまうなどの懸念がある。

 

 夢洲についても、共生社会に向けて、自然と人間が共存できることが必要である。

 

Q&A

 面積はどれくらいあればいいか

一概に言えないが広ければ広いほどいい。小さいと猛禽類からの攻撃を防げない。猛禽類がとまるような構造物から離れている必要がある。また、1ヶ所でなく近くに複数の干潟があることが重要である。

 

人工干潟は堤防外につくる方が良いか

東京港野鳥園は堤防内である。堤防外だと砂が波にさらわれることなどへの対応が必要である。

 

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