(資料)コアジサシに関する専門家の意見
(資料)コアジサシに関する専門家の意見
北村 亘 氏 (東京都市大学 准教授) 2020年6月20日
<コアジサシとは>
小鰺刺、アジを刺す鳥、その小さい部類で、えさは主にカタクチイワシ、10cm前後の魚である。ユーラシア大陸に幅広く繁殖、アメリカには近縁のアメリカコアジサシがいる。日本のものはニュージーランド、オーストラリア、パプワニューギニア方面から。それは、足環とジオロケーターで確認した。沖縄からフィリピンのあたりを通り、島伝いに移動していることがわかってきている。
コアジサシの特徴の一つが巣で、草木の生えない裸地に営巣する。ヒナはうまれてすぐ羽がふさふさしていて立ち上がり動ける、孵化まで3週間ほど、飛べるまで3週間ほど、全部でおよそ一ヵ月半ほど子育て時間。大きな特徴として、集団で営巣する。数百羽から数千羽一箇所に集まり、コロニーと呼ぶ。
営巣場所は、海岸線そばで人の利用しないところ。海より2km以内、0,5ha以上は必要である。コロニーの場所は消えたりできたりを繰り返す。
<コアジサシは減っているのか?>
南関東では2003年ごろを境に減少傾向にある。原因ははっきりしないが、カタクチイワシの漁獲高との関係性があるのではとも思われる。一般的には、人間の活動に営巣場所を奪われているからといわれている。全国、日本各地で減少が報告され、各都道府県のレッドリストでもほとんどの場所で絶滅危惧種に指定。東京湾で」は埋め立てが進み、コアジサシの餌場や営巣場所がなくなってきていることが減少の原因と見られる。そのため、人口造成地に営巣が増えてきている。駐車場に600羽、アスファルトの駐車場に卵も。そのように営巣に選ばれた造成地も、翌年には空き地自体なくなることが多い。
<リトルターンプロジェクト 2001,6,10開始>
森ケ崎水再生センタ(東京都で最も規模の大きい下水処理施設)屋上でコアジサシの営巣確認。卵がコンクリートの上に転がっていた。有志が集まりリトルターン(英名コアジサシ)PJ発足。下水道局、地元大田区と三者間で会議、屋上を人工営巣地として整備しようということになった。
・屋上に砂利を敷き詰めた(ボランティア動員)
・カラスなどから隠れるように人工的なシェルターを設置
・中身を抜いた鶉の卵にペンキをつめておいておく
→カラスがつついてペンキがくちばしにつくと嫌がる→卵の見分けをカラスが行うようになって決定的ではない。
・イヤガラス→慣れが生じてきてだめ
現在は、これらをローテーションで行い、カラスが慣れないようにするしかない。
裸地を護るためボランティア動員で草を抜いている。理想的には1ha以上の土地が必要である。大いコロニーほど巣立ち雛が出る。それは、モビング行動は多数のコアジサシがいてはじめて有効だから。現在6haの屋上を営巣地としている。コアジサシを呼ぶため(誘引)にデコイを利用している。営巣地には白い貝殻をまいている。関空でコアジサシの誘引をした事例からコアジサシは白い地面を好むことが分かってきた。
<モリガサキのサンクチュアリ化でなにが見えてきたのか>
緑地だけでなく、さまざまなタイプの生態系が必要である。生態系を一つの単位として考える。生態系全体を護る→コアジサシを護ろうというのは象徴種(フラッグシップ)だから。保全を上手く進めるための指標。コアジサシだけが護れればいいというわけではない。一箇所ではなく、近隣に複数の場所を保全していることが大切。一つがだめになったとき、他へと避難できる。
<サンクチュアリネットワークを作るためにどうするか>
*サポーター作り、養成が重要である。それから、行政への働きかけ(現在も年に一度は三者で集まり保全のためにどうするかを話し合う)。調査研究にも力を入れ、海外の研究者含む各地の研究者と交流し、どうすればよくなるかを話し合う。観察会、子供向けのおもちゃを作るイベントなどでコアジサシのための理解を深めるようにしている。護りたい人だけでなく、ただリフレッシュしたいなどの人もボランティアとして巻き込む。積極的に募る。
以下Q&A
1:サイズの単位は?ハヤブサは雛も襲う?
→コロニーサイズは羽、何羽いたかで測る。ハヤブサは成体のみ襲う。
2:大阪でも代替地を提供したいが注意すべき点は?
→コアジサシが来ることが重要、カラスだとかの対策がしやすい場所。
3:人による影響を防ぐための立ち入り禁止は?
→人がよく出入りする場所にいるコアジサシはあまり気にしないが一般的に歩いてコアジサシが飛び立つことのない距離を保つ。巣から数十mは必要かと。
4:万博の影響は?
→影響はあるでしょうが、万博を中止しろというのは極論なので、一角に営巣地を作るなど共存を図る方向で。
5:営巣環境の変化がなくてもコロニー移動はあるか
→基本的には、何らかの影響があったときに移動する。草が生えてきた、洪水があったなど、何もなくてもおこりうるが、主には何かしらの変化があったと考えられる。
6:卵の色の個体差と営巣地の色に関連は?
→まだよくわかってはいない。地が黄色っぽいのと白っぽいのがあるが現在あまり関係性は見出せていない。
7:雛が巣立つことのできる最低コロニー数は?
→厳密にはいえないが、だいたい目安として百羽いるとカラスを追い出せると考えている。
8:コアジサシの営巣地は日射がきついですが、近年の酷暑の影響は?
→あります。調査で見つけた卵に、湯だっているものがある。
9:ドローンは影響があるか?
→想像ですが、ドローンが飛んできたらモビングするのではないかと思う。
11;地面の色で繁殖地を選ぶのは温度のせい?
→可能性はある。貝殻をまいているほうが孵化率が非常に高くなっているので、白い地面は孵化率が高く、そこは温度が低いことはいえる。しかし厳密に温度と孵化率の関係性のデータはないが、何か関係性があるとは言える。
12:餌採はどこまで?
→海岸線から2kmほどまでは採りにいっているようだ。
13:移動はどのくらい?
→シーズン内の移動と来年の移動があり、シーズン間は20kmくらい。来年どうするかの移動では60kmくらいとの結果がある。
14:最も効果のあったカラス撃退法は
→イヤガラスは2年ほど効果あり、
15:森ケ崎の個体は、毎回同じか?
→足環からみると、幾つかの個体は同個体、感覚的にはあるいていどかなり戻ってきていると思っている
16:森ケ崎の費用はどのくらいかかった?
→大田区や水再生センターなどいろいろな場所がかかわっているのではっきり言えない、けっこうかかったとだけ
17:環境アセスの準備書段階でどのような保全措置を提案すればいいか
→基本的に営巣中に工事をとめることが一番効果がある。どこに巣があるか分からないのでとめられるのであればとめるのが一番いい、できないなら、誘引対策と忌避対策を両方採る、吹流し、人のみまわりなどを組み合わせてこないようにする。そして来ていいよという場所にデコイをおいたりする。
18;東京湾南側に繁殖地を作る予定は?
→作ろうと思ってできるものではなく、もともといる場所に誘引する。
19:草抜きのタイミングは?
→3月末に草抜きをする。4月頭に見え初めて、4月末巣の場所を決めるので
20:コチドリがコアジサシに影響は?
→コチドリよりコアジサシのほうが強いので、影響はない。カラスからコアジサシのおかげで護ってもらってるかな。
21:コアジサシの繁殖で影響を受けるほかの種は?
→魚の類。地上の生き物にはない。
22:夢洲で工事のために居なくなった場合、どこかで行っているか
→可能性はある。最初がだめだった場合、6月前半くらいまでは二回目の繁殖をする。ただ、7月くらいになると諦めてしまう。
23:餌採での距離の違いで巣立ちの時期に違いはあるか
→どれだけ餌が取れたかにかかわる。
24:カラスへのモビングがあれば営巣の可能性は高いか
→かなりの確率で卵はある。
25:卵数は?
→2卵か3卵、感覚的に3卵がちょっと多い。1,4の時もある。繁殖シーズンに子育ては一回。失敗すると生みなおす。抱卵はほぼメスで、時々オス。