都市と自然誌抜粋(トピック)No_441_201212


  「都市と自然」誌2012年12月号の内容を一部ご紹介します。

報告

「水都のたからを考えるシンポジウム=淀川の生命をつなぐ」

           加賀まゆみ(理事・水道記念館と生物飼育の存続を考えるネットワーク)

 去る10月25日(木)、大阪市水道記念館の水族展示と飼育継続を求めて、当協会も参加している「水道記念館と生物飼育の存続を考えるネットワーク」主催のシンポジウムが開催されました。

平日の夜間という参加しにくい時間帯にもかかわらず、100名を超える来場者があり、会場の大阪市立大学文化交流センターホールはほぼ満席。ネットワーク代表の綾史郎氏の司会で、時間ぎりぎりまで、熱い意見交換が行われました。

【動画上映】
「廃館の危機迫る大阪市・水道記念館の生き物たち」
動画は錦俊也氏制作、解説は小村一也氏。これはYouTubeにアップされていますので、是非一度ご覧ください。
→別サイトで動画を見る(YouTube)                   ▲最初のプログラム動画上映中の会場風景

 

【基調講演1】

「淀川の淡水魚」長田芳和氏(大阪教育大学名誉教授・水道記念館淡水魚コーナー開設時監修)

日本列島がまだ中国大陸と地続きだったころ、黄河や揚子江の河口は今の濃尾平野から大阪平野あたり。琵琶湖淀川水系には、日本が列島になってから固有の進化を遂げた大陸系の生物も多く、日本列島での東限・西限、南方系、そして汽水域の生物が生息し、魚類層の豊富さは日本一である。だが昨今の河川整備により、魚道をつくっていても堰の存在はその環境に生きる生物を限定してしまう。どういう環境でどのように魚たちが産卵・子育てしているか、映像を使って解説。

▲淡水の生きものの多様性日本一の琵琶湖淀川水系には、専門の水族館が必要と長田氏が淀川水族館構想を提示された。(資料提供:長田氏)

 【基調講演2】

「淀川生態系の衰退」河合典彦氏(淀川環境委員会水域環境部会長・環境省希少野生動植物種保存推進員)

今市中学校の正門にイタセンパラの図柄のレリーフがあるのを偶然知り、大阪の子どもたちにとって、かけがえのない宝だと再認識。子ども時代から43年間淀川に関わり、河川環境の劇的な変化を見てきた。中学時代の観察記録と現在の確認種を比べ、淀川生態系の衰退を実感。上流ダムの影響で、河床低下が激しく、河岸は乾燥し、ワンドが失われ、以前はワンドで簡単に見つけられた魚たちも激減。洪水時の冠水域で産卵子育てをするような生きものは繁殖不可能になった。この下流域の洪水攪乱が失われたことが、外来種の増加に拍車をかけている。

1959年の河合氏の幼児期の風景写真を49年後の同じ場所の写真と比べると同じ橋の向こう側の山野見え方が違う。▲
これだけ河床低下が顕著である。(写真提供:河合氏)  

【パネルディスカッション】「今、なぜ水道記念館の水族飼育・展示が必要か」

コーディネーター:綾史郎氏(大阪工業大学教授・ネットワーク代表)

淀川の劣化が進んでいる。その中で、平成10年より水道記念館での水族展示が始まった。それは、皆に失われつつある貴重な自然を意識させる、いいチャンスだったのだが。

パネリスト:澤井健二氏(摂南大学理工学部環境工学科・水辺環境創出研究室教授)

この100年、河川は「治水」という力学的視点での開発に走り、環境の悪循環をつくってきた。だがこの15年、自然環境改善へと目を向けはじめたが、まだ結果は出ていない。川は流域の住民、生物を含めたみんなのもの。「生かそう水辺、つなごう流れ」を合い言葉に、手こぎ「Eボート」で、琵琶湖淀川水系の流域の空間と立場と時をつなぐ活動をしている。

 
▲水道記念館とNPO法人川いい会との協働事業で多くの子どもたちの環境教育を長年実践してきたと石山郁恵氏とパネラーのみなさん。

パネリスト:石山郁恵氏(河川レンジャー・環境カウンセラー)

人を自然に近づける「川いい会」を主宰し、四季折々、水道記念館といろいろな協働事業をしていた。とくに、絵を描くことや工作など、川の生きものの現物を見ながら創作できる。それにより、子どもたちはいのちの大切さ、水の大切さが学べる。目の前を淀川が流れる水道記念館は大変貴重な学びの場であった。

河合氏:理科教育でいちばん大切なのは実体験。バーチャルで限りなく実物に近い物ができても、それは所詮偽物。子どもたちにはまず始めに本物にふれて欲しい。

長田氏:子ども時代の体験はものすごく大きな意味を持つ。川は楽しいもの、親しめるものであり、生物をいじり、ともすれば殺すことで、生命の大切さを学ぶ。水道記念館が水道局に負えないものであるなら、いっそ独立し、共同出資で「淀川水族館」を作ったらどうか。

澤井氏:環境は多くの市民の理解があって初めて守られる。今府内の自然関係施設は予算削減のあおりで土日休館が増えている。これから子どもたちはどこで自然環境を学べるのか?

 

一般市民からのご意見

・大阪の子どもたちが天然記念物イタセンパラを知っていて、誇りに思っているということが大変うらやましく思った。これも社会見学などで本物に親しんでいたからでしょう。
・運営を府市統合本部や環境省・国交省などに広げて、保存を考えて欲しい。
・お金を産む集客施設にしたら?
・水をテーマに企業の協力を頼んだら?
・大阪市は毎日100万トンの水道水を大阪湾に捨てる無駄や、使わないダムの水利権をなんとかするほうが先。

など、参加者のみなさんからも、たくさんのご意見ご感想を頂きました。

ネイチャーおおさか 公益社団法人 大阪自然環境保全協会

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