都市と自然誌抜粋(トピック)No_438_201209


  「都市と自然」誌2012年9月号の内容を一部ご紹介します。

報告

信太山丘陵(和泉市)自然環境保全に前進 ースポーツ施設建設計画を撤回ー 

 文:花田茂義(信太山に里山自然公園を求める連絡会 事務局長) 

保全・活用検討委員会の設置

 去る6月19日、和泉市は、平成24年度市議会第2回定例会総務安全委員会・協議会において、信太山丘陵の市有地16haの事業計画について、「信太山丘陵市有地保全・活用検討委員会」を設置し、「自然環境の保全と市民の財産としての活用等について、有識者等を交えた検討を行います」と報告しました。
 これは、「北部地域公共施設の整備事業」として、2004年防衛庁(現省)と等価交換した土地の利用計画として示されていたスポーツレクリエーション施設整備事業の事実上の撤回を意味したものであり、今後設置される検討委員会に委ねられたとはいえ信太山丘陵の自然環境を保全する上で大きな前進となりました。

北部地域公共施設整備事業とは

 陸上自衛隊信太山演習場約226haの内に、戦前からの経緯も絡まって約13haの民有地(田・畑)が点在していました。演習の支障をきたすとこれら介在民有地解消の取り組みが進められ、和泉市は土地開発公社を通じて介在民有地を買収し、買収した土地と演習場の一部を等価交換しました。その交換した土地16haの活用として示されたのが北部公共施設整備事業で、多目的グランド、野球場、テニスコート、駐車場、緑地などスポーツレクリエーション施設として示されていました。
 バブル経済の終焉期に和泉市がこのような大型のプロジェクトを計画した動機の一つに防衛省の補助メニューが大きく作用したと思われます。補助メニューでは、用地代の1/2、上屋は2/3の補助がもらえるといわれていました。

ところが、この事業計画は、平成2005年度和泉市の「財政健全化計画」により5年間の事業凍結となり、凍結解除を迎えた2010年度の「和泉再生プラン」では、整備費を抑制し、2011年、2012年度で検討を行い2013年度より事業化となっていました。

高まる自然保護運動と請願の採択

 地元では信太山丘陵の自然保護を求める声が次第に高まり、2008年「信太の森FANクラブ」の結成以来、関西自然保護機構とシンポジウムを共催するなど取り組みを進め、2010年12月には「信太山に里山自然公園を求める連絡会」を結成して大阪自然環境保全協会をはじめ和泉市内外の15団体が連携して、「スポーツ施設設備の大型開発」は中止して、大阪を代表する生物多様性の豊かな自然環境を守り、里山自然公園としての活用を求める運動へと取り組んできました。
 2011年には、請願署名運動に取り組み、多くのみなさんの奮闘の結果、予想以上の1万人を超える賛同署名を得ました。そうした市民の声を背景に2011年市議会第3回定例会において、「信太山丘陵の市有地(16ha)の自然環境の保全に関する請願」が採択されました。

検討委員会設置の理由

 総務安全委員会・協議会での報告では、検討委員会設置の理由として、
(1)2009年度から2010年度の自然環境調査で多くの絶滅危惧種が確認されていること、
(2)市議会での請願が採択されたこと、の2点を揚げ、信太山丘陵市有地については、自然環境の保全と市民の財産としての活用について検討を進めることにした、と述べています。また、スポーツ施設については他の場所に策定を予定していると述べています。
 こうした判断に立ち至ったもう一つの要因として、当該土地に予定していた防衛省の補助が開発公社解散に伴う和泉市有地化の中で対象外となり補助が出なくなったことが大きく係わっていると思われます。

市民運動への確信と責任を

 和泉市の方針転換には、バブル崩壊後の国や地方公共団体の財政事情や東日本大震災後の経済・社会的状況等の背景に加えて、直接には「請願採択」が大きく影響していると報告の中で明らかにしています。それを実現したのは和泉市内外の多くの人々の粘り強い取り組みの結果であり、市民が主人公となる市政を一つ取り戻したといえます。ささやかながらこの事実が、同様の課題で闘う全国の人々への励ましになることを願ってやみません。今後、検討委員会のありようを注視すると共に、信太山丘陵の自然環境保全に一層の責任を負わねばならないと痛感しています。連絡会の中心メンバーである「信太の森FANクラブ」は、6月25日、特定非営利活動法人として認証され、そうした一歩を歩み出しています。

 *上記報告誌面(「都市と自然」2012年9月号4-5ページ)PDF  

 *参考:「みんなでつくろう里山自然公園」(発行:信太山に里山自然公園を求める連絡会)(PDF) 
  

 

水道記念館と生物飼育存続の要望書を提出

 文:保全協会理事会 

 廃館の危機に追いやられている大阪市の「水道記念館」(東淀川区柴島)について、保全協会は7月18日、大阪市長や大阪市議会議長、市議(86名)、水道局、同館に対し、館とその生物飼育の存続を求める要望書を提出し、市政記者クラブに配布しました。当日や翌々日の新聞には関係記事が掲載され、8月2日には、淡水魚関係の学究者など約40名が「淀川水系の淡水魚を次世代につなぐ会」を結成し、ほぼ同趣旨の要望書を市長らに提出しました。この流れを館の存続につなげたいものです。要望書の内容を紹介します(抜粋)。

 水都・大阪市の誇りである水道記念館と生物飼育の存続を要望します

 水道記念館は、大阪市の水道や淡水魚等に関する普及・学習施設の拠点として、1995年、大阪市水道通水100周年を記念して開設されました。
 水道記念館の展示の一部である淀川水系の淡水魚コーナーは、日本産淡水魚の保有種数日本一を誇り、その数は107種にも及んでいます(2010年度実績:公益社団法人日本動物園水族館協会施設中最多)。まさに、水都・大阪が我が国のみならず、世界に誇るべき施設です。
 さらに、淡水魚の飼育展示だけではなく、19種の繁殖にも成功しています。なかでも天然記念物で絶滅危惧種でもあるイタセンパラは、既に淀川と富山平野、濃尾平野の各々一部にしか生息していませんが、全国の園・館で飼育されている個体数の約75%に及ぶ601個体を水道記念館が飼育しています(2011年1月1日現在)。この点からも日本の固有種の保存事業に大きく貢献しています。このイタセンパラに加え、アユモドキなど希少種の安定した飼育技術もあわせて確立・維持してきました。
 ご存知のように、琵琶湖・淀川水系では、生息地の破壊や悪化、外来種の流入などにより日本産淡水魚が大きく生息数を減らしてきており、従来は普通にみられた種でさえ数を減らしています。このような深刻な現況のなか、水道記念館が飼育している107種は、普通に見られた種が絶滅の危機に瀕している淀川水系のことを考えると、全て希少種と考えるべきです。
(中略)
 生物多様性の保全は今や地球規模の喫緊の課題となっています。日本では生物多様性基本法が施行され、我が国、そして主要な国際都市でもある大阪市、私たち市民にもその務めがあります。その大阪市はまさに今年1月、「生物多様性地域戦略のあり方」の環境審議会答申を受けました。

 先述しましたように、水道記念館は単に水道や淡水魚に関する展示ではなく、世界的にも特有な環境に生みだされてきた淀川水系固有の生物を保存し、大阪、そして日本、ひいては世界の生物多様性資源を今も育んでいる貴重な施設となっています。もちろん、今後策定される「大阪市生物多様性地域戦略」に位置づけるべき重要な施設です。
 最も大切なことは、ここで増えた魚たちがやがて安心して帰ることができる琵琶湖・淀川水系を、私たちが取り戻すことです。大阪市民など約1,000名でつくる私たち公益社団法人大阪自然環境保全協会は、水道記念館とその機能を廃止することなく、一時閉鎖されている館で現在飼育中の全種を保存し、琵琶湖・淀川水系のジーンバンクをはじめ自然環境学習などの資源として活用し、飼育展示及び飼育技術の向上を継続していただくことを、強く要望します。

以上

 *上記報告の誌面(「都市と自然」2012年9月号13ページ)PDF 

 *ニュースアーカイブ 2012.9.5「水道記念館の再開にむけての陳情書提出」のページ

 

ネイチャーおおさか 公益社団法人 大阪自然環境保全協会

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