第8期・自然環境市民大学修了式・記念講演 今本博健氏: いまこそ抜本的転換を ―これからの河川行政― (7) |
■ 抜本的転換を阻むもの:政官学の馴合い |
<抜本的転換を阻むもの:政官学の馴合い> 前原元国交相は私的諮問機関として 「今後の治水対策のあり方についての有識者会議」 を設置し、ダムに依らない治水への転換をはかろうとした。 しかし、この委員会 (委員長:中川博次・京大名誉教授) が行った 「中間とりまとめ」 では、ダムとダム以外の方法をコストで比較し、しかも、ダムについてはいままでかかった費用はカットし、これからかかる費用をベースに比較するというような、コスト重視・定量治水重視の議論に終始した。 これでは初めから勝負は決まっており、その結果、各地のダムが猛烈な勢いで駆け込み建設への傾斜を強めている。 この有識者会議は、次世代に大きな 「つけ」 を残すことになると思う。 <最後に、二人の 「ことば」 を紹介したい> 宮本 博司(みやもと・ひろし)氏 お一人は、今日、何度もお話しした宮本博司氏である。 彼は、学生時代、あまり勉強しないのにいい成績をとるという、教師にとってはある種、シャクな学生だったが、卒業後、いろいろ苦労したのであろう、武士は3日見ざれば刮目して見るべしのことわざ通り、いまや河川に関する見識は、わたしよりはるかに高いものがある。 彼が河川局をやめ、一般人として流域委員会委員に応募し、委員長に選出されたときの挨拶を、議事録から紹介する。 「私は河川部長のとき職員に、隠さない、ごまかさない、逃げない、うそをつかない、このあたり前のことだけはきっちり守っていこうと申し上げました。 (委員会の)運営にあたりまして、これらを私の信条としてやっていきたいと思います。 これらは私がやめてからも、近畿地整の河川部では守ってくれていると思います。河川管理者に再度確認しますが、これら4つはぜひ(守られることを)お願いいたしたい(図の拡大)。」 わざわざ、こんなことを言わねばならない河川局というのは、ふだんから、隠したり、ごまかしたり、逃げたりしているということだろうか。わたしは、役人の人々には、是非、これら4つのことを守ってほしいと思っている。 関 良基(せき・よしき)氏 もう、お一人は関良基さんである。 関さんは、利根川の基本高水22,000トンは大き過ぎるのではないか、算出根拠を示せと河川局にせまると、最新のデータを使い、従来の数値を使った貯留関数法が適用できることを検証している、と回答されたので、再計算すると全く合わない。 したがって、基本高水の算出にもちいた数値を変えているに違いないから、その数値を公表せよと強く求めたが、公表されなかった。 ところが、自民党の河野太郎さんが予算委員会でちょっと質問したら、馬淵大臣がその数値を公表した。これを受けての、関さんのブログでの言葉を紹介する。 「私は研究者生命にかけて断言します。 国交省側が八ツ場ダム建設を正当化するために、計算結果を捏造していたことは、もはや疑う余地がありません。これは「公文書偽造」の犯罪なのです。 もし私の主張が誤りで、国交省の主張が正しい場合、私は恥じて研究者であることを辞めます。 二度と論文も書きません。 このブログも閉鎖して断筆します(図の拡大)。」 関さんは、まだお若いけれど、わたしは彼の職や生命をかけてでも不正を追及し、真理を追求しようという姿勢を高く評価していて、こういう人がもっと出てきてほしいと思っている。 <おわりに> わたしは、「役人は国民に対して誠実であってほしい」と思っている。 今は、上役や辞めたOBには誠実だが、国民に対しては、だます、ごまかす、逃げる・・・など、誠実ではない。今、全体としてやっている、ものすごく大事なときに、国民に対して誠実であってほしい、と思う。 それから、御用学者の多いことよ。御用学者でもいいが、御用なら御用らしく、もっと努力してほしい。 本来、学者が恐るべきものは真実だけだから、真実に対しては謙虚であってほしい。それ以外は、必死になって自分の思ったことを言ってほしい。 とくに河川工学においては、川の流れだけが問題ではない。最初に高田会長が紹介してくれたように、そこに棲んでいるもの、社会的なインパクト、それらを全部総合してやるのが河川工学である。 しかし、それをやるにも基本的なことは知っていないといけない。そして、川のことを一番よく知っているのは、毎日川を見ている地元の人であるから、そういう人たちの知恵に学びながら河川の問題に取り組んでいかなければならないと思っている。 この辺で今日の話を終わりたい。 ありがとうございました。 最後になりますが、修了式当日貴重なお話を頂き、また、HPへの掲載、画像の提供を快くお許し頂いた今本博健先生に心からお礼を申し上げます。 自然環境市民大学 佐藤治雄(2011.4.1.)
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